遠位脛腓靭帯捻挫(ハイアンクルスプレイン)の症状
強制的に足が下腿(膝と足首の間の部分)に対して外側に過度に捻じれたり上方向に屈曲してしまうと、下腿を構成している脛骨と腓骨を繋げている遠位脛腓靭帯(図1)に損傷が生じてしまう場合があります。この捻挫を遠位脛腓靭帯捻挫(ハイアンクルスプレイン)といい、内反捻挫よりも発生頻度は少ないものの、特にコンタクトスポーツなどで頻繁に生じる治りが遅い捻挫の一つです。
図1.遠位前脛腓靭帯(下anterior inferior tibiofibular ligament)および後脛腓靭帯(上 Posterior inferior tibiofibular ligament)。Wikimedia Commons より引用。
症状としては、足首上部に痛みや腫れがみられ、場合によっては内出血などがみられる場合もあります。足首の外反捻挫と同様に、内反捻挫と比較して厄介な点としては、内反捻挫よりも立った時や歩いた場合など、体重を足に載せて運動するときに痛みが大きい点や、競技に復帰するまで、もしくは痛みがなくなるまでに、同じ程度の内反捻挫よりも時間がかかることが多いという点です。
ハイアンクルスプレインの対処法
全ての捻挫は骨折を伴っている場合がありますので、必ず医師の診断を受け、骨折などのケガが無いか診断してもらうことは必須です。医師に診てもらう前の応急処置は、RICE処置が基本です。
ハイアンクルスプレインは足首の外反捻挫と同様に、体重を足にかけると痛みが増大するという特徴があります。このような特徴がある理由は、足首を構成する距腿関節と距骨下関節(図1参照)の構造からわかります。
足は、体重をかけると土踏まずなどの足のアーチがつぶれ、踵骨(かかとの骨)は、下腿に対して外側に多少倒れる構造になっています。踵骨が外側に倒れる動きは距骨下関節で生じますが、距骨下関節の軸は図2のように横から見て斜めになっているので、踵骨が外側に倒れると、上にある距骨は内側に回転する構造になっています。距骨は脛骨を天井として内くるぶしと外くるぶしを壁とした距腿関節を構成しています。
足に体重をかけてアーチがつぶれると踵骨が外側に傾き、上の距骨が内側に回転すると、距骨は内くるぶしと外くるぶしの壁を押しながら下腿も内側に回転させます。その時に内くるぶしと外くるぶしを押し開く力が生じ、脛骨と腓骨を繋ぐ遠位脛腓靭帯にもストレスがかかって痛みが増大してしまいます。これが、ハイアンクルスプレインを患うと、体重をかけたときにも痛みが生じてしまう理由です。
また、足が上に屈曲しても遠位脛腓靭帯にストレスがかかりますので、歩いたり着地動作をしたりするときの足首の屈曲動作も痛みが増してしまう原因になります。
このように、ハイアンクルスプレインも、外反捻挫と同様に、体重をかけた脚の屈曲―伸展運動など、基本的な運動動作を行うと損傷部分にストレスがかかりやいことが、治りが遅くなってしまう理由です。
図2.距骨下関節の軸の傾き
以上のような、遠位脛腓靭帯にストレスがかかってしまうメカニズムがわかると、ハイアンクルスプレインへの対処法がわかります。
基本的に、遠位脛腓靭帯は脛骨と腓骨を繋げる靭帯で、これら二つの骨が離れないようにしてくれている靭帯ですので、一つは脛骨と腓骨が離れないようにテーピングやストラップなどで足首を占めてあげること、二つ目はアーチがつぶれすぎないようにアーチサポートをしてあげるということ、三つ目は足首が過度に屈曲しないようなテーピングやサポーターをすることなどが、損傷部位のストレスを軽減するための対処法となります。
遠位前脛腓靭帯を防ぐには
遠位前脛腓靭帯を防ぐ絶対的な方法はありません。しかし、ハイアンクルスプレインが生じる仕組みを考えると、ハイアンクルスプレインが生じる確率を少しでも減らす対策としては、しっかりと足の裏の内在筋を鍛える、インソールを入れるなどして、運動時に足裏のアーチがしっかりと支えられる状態を作ること、着地動作などの衝撃吸収の技術やそれに必要な神経筋機能を高めるトレーニングを行うこと、しっかりとした方向転換技術を習得することなどが考えられます。
著者プロフィール
下河内洋平 博士
博士(Exercise and Sport Sciences)
現大阪体育大学教授。2003年にアメリカ合衆国ミネソタ州においてNATA-BOC公認アスレティックトレーナーの免許を取得。2006年にノースカロライナ大学グリーンスボロ校において博士号(運動・スポーツ科学)を取得後、2007年まで同大学においてフルタイムの Postdoctoral Research Associate として働く。2007年9月より大阪体育大学に就任し、現在に至る。非接触性前十字靱帯損傷予防のメカニズムの解明や、そのための合理的なトレーニング方法の開発などを研究テーマの主軸として研究活動を行っている。