本文へ

なでしこジャパンを斬る!

今年は、4年に1度のFIFA女子ワールドカップがフランスにて開催されました。澤穂希選手が引退後、初のワールドカップで日本がどのような戦い方をするのか注目した人は多いと思います。なでしこジャパンの大会前時点でのFIFAランキングは7位。それでも、前大会での準優勝、前々大会での優勝した成功体験から最低でもベスト4には入ってくれると思っていたファンサポーターは多かったことでしょう。ところが初戦で格下のアルゼンチン(同37位)相手にまさかのドローでスタートダッシュを切れず完全に波に乗り遅れてしまいました。第2戦はスコットランド(同20位)相手に辛勝しましたが、終了間際に失点するなど勢いが付く勝ち方ではなく、第3戦はイングランド(同3位)に完敗と予選リーグは計算違いの結果となりました。決勝トーナメントに入り、ここからスイッチが入るであろうという淡い期待は届かず、まさかのベスト16敗退となり、女子サッカー人気に不安を残す結果となってしまいました。

今大会の敗因はいったいどこにあったのか。私なりに分析をすると、攻守の要が大会通じて不在だったことに尽きると思います。大誤算は、阪口夢穂選手の怪我からの復帰が叶わなかったことではないでしょうか。現代サッカーにおいてボランチの役割がどれほど重要かはサッカーファンであればよくご存じかと思います。男子日本代表で言えば、柴崎岳選手や長谷部誠選手のような存在です。大怪我を負って今シーズン所属チームでプレーしていないのにもかかわらず、阪口選手の復帰に期待せざるを得ないチーム事情が現実としてありました。

確かに、阪口選手は類い稀な選手であることは否定しません。しかし、女子サッカーの競技人口は緩やかではありますが伸びている中、有望な選手が育っていないということを示しているように感じます。

私は、今の日本の女子サッカートップリーグであるなでしこリーグの戦力バランスに問題があるのではないかと言いたいところです。昨年、3冠(リーグ、リーグカップ、皇后杯)の日テレ・ベレーザが圧倒的な戦力を誇り、今大会には半数近い10人が選出されています。なでしこリーグ第6節では、日体大FIELDS横浜相手に、11-0というスコアの試合もあり、この環境で選手のレベルアップが図れるのか疑問に感じます。男子日本代表は、スタートで出る選手のほとんどが海外組と言われる、欧州リーグに身を置く選手たちで構成されています。Jリーグよりレベルの高い環境でプレーすることで、日本代表として屈強な外国人相手に戦う際に、今では物怖じすることなく堂々と戦うことができています。

なでしこリーグのプロ化を検討していると日本サッカー協会の田島幸三会長が発言をしています。現状では戦力均衡からは程遠く、試合そのものをマネタイズできるのでしょうか。本当にプロ化をするのであれば、MLS(アメリカプロサッカー)のように、リーグを親会社としてチームを子会社とするワンエクイティ方式を導入(選手の契約はプロ契約)し、ドラフト制度やサラリーキャップで戦力均衡を図り、試合そのものの価値を上げることや、入れ替え制を当分の間導入せず、チームを絞ることで投資価値を上げて、投資家から資金を募る等しなければ、今まで通りのやり方では成功する確率は低いと考えます。

2011年なでしこジャパン優勝後の数年間は、世界一流のプレーを間近で見られることや女子ならではのひたむきなプレーが人々の心をひきつけ盛り上がった時期がありました。かつて女子サッカーに携わった人間の一人として、今後女子サッカーのレベルアップを図りつつ、我々を誇り高くさせてくれる日が再び来てくれることを強く望みます。

著者プロフィール

佐々木 達也

佐々木 達也(東京都出身)

・城西大学 経営学部 准教授  スポーツマーケティング・マネジメント分野領域を専門とする。
・早稲田大学人間科学部スポーツ科学科卒業。早稲田大学スポーツ科学研究科修了。
・大手総合広告代理店にてスポーツに関する業務に携わり、Jリーグクラブ勤務後、金沢星稜大学人間科学部スポーツ学科講師を経て現職。現在もJ2ツエーゲン金沢シニアアドバイザーを務める。