ストレートネックの改善方法②
姿勢と首の問題
大阪体育大学・同大学 教授 下河内洋平
PhD, ATC, JATI-AATI
はじめに
前回のコラムで、私の首は典型的なストレートネックであり、数年前に突然首に激痛が走り、その後腕まで痛みが走り、力が入らなくなったという話を書きました。今は様々な方法を試した結果、大分よくなりましたが、姿勢を良くすることが最も首の状態を良く保てることが分かりました。今でもちょっと油断をするとすぐに首(特に根元の部分)にだるさを感じたり、腕に力が入りづらくなったり、腕が少ししびれたりするので、車を運転する時やデスクワークを長時間するときなど、常に良い姿勢を保つように心がけています。良い姿勢を保っていると、私の首でもあまり問題は生じません。なぜなら、姿勢と首のストレスは物理的に連動しているからです。そこで、本コラムでは、姿勢と首のストレスの関係性に関して解説します。
骨盤、腰椎、胸椎、頚椎、頭部の位置は全て繋がっている!
脊柱の最も自然な姿勢と考えられる中立位置は、図1のa)の姿勢のように、骨盤の適度な前傾により腰椎がすこし前弯し、胸椎は後弯(軽い猫背)し、頚椎は少し前弯(前側に弓なりに曲がった状態)しているという姿勢になります。
しかし、図1のb) の姿勢では胸椎が過度に後弯しており、猫背の状態になっています。この姿勢では、頭部は自然と胸椎よりも前に突き出るため、首はストレートネックになりやすく、負担もかかりやすくなります。さらに、頭が前に突き出るために、骨盤の後傾と腰の反らしで重心を足の上にとどめる姿勢を取るために、腰痛にもなりやすくなります。このような姿勢の人は、首や腰の問題を解決するためには、大胸筋など胸の前の筋肉の柔軟性を高めたり、肩甲骨の筋肉を鍛えたりし、猫背を改善させる必要があります。
図1のc)の姿勢は逆に、骨盤が過度に前に傾いており、腰椎が過度に前弯し、胸部も俗にいう鳩胸タイプの姿勢です。このような姿勢では、胸椎と腰椎が後ろに反りすぎているので、頚椎の前弯が減少してしまう(ストレートネックになる)ことがあります。
これらの姿勢の例で分かるように、骨盤の傾きと腰椎、胸椎、頚椎の姿勢は繋がっていますし、胸椎や頚椎の姿勢が腰や骨盤の姿勢に影響を及ぼすこともあります。そのため、首の問題を解決するための姿勢改善には、首だけでなく骨盤から頭部までの全ての姿勢を良くする必要があります。
姿勢の悪さがなぜ首に負担をかけるのか?
図2. 良い頭の位置と悪い頭の位置
頭部は身体の重さのおよそ10%です。つまり、60㎏の人であれば頭部の重さは6kg前後ということになります。これだけ重い頭部が、もし、図2のように胸郭よりも前に突き出ていたら、常に頭を支える筋肉が働き続けなければいけません。
最近話題になっているストレートネックは、長時間のデスクワークやスマホを悪い姿勢で見続けることが原因だと言われていますが、だんだん熱中してくると背中が丸くなり、頭が身体よりも前に突き出した状態を維持し続けることで、首の筋肉を常に緊張状態にします。このような状態で首の筋肉を使い続けると、首周りの筋肉は血行不良となり、慢性的に緊張した状態になってしまいます。
首の筋肉の過度な首周りの神経を圧迫して肩こりや腕のしびれなどの神経症状引き起こしたり、頭痛の原因になってしまいます。ですので、もしあなたが首に常にコリを感じており、その原因に姿勢の問題が考えられるのなら、まず、普段の姿勢を修正することが大事です。言いかえれば、姿勢の悪さが首周りの問題を引き起こしている場合、首周りのマッサージだけを行ってもそれは対処療法に過ぎず、根本的な解決にはつながらないことを意味しています。
次回のコラムでは、実際に、どのように姿勢を改善して首の問題を解決していくかに関する方法に関して解説を行いたいと思います。
著者プロフィール
下河内洋平 博士
博士(Exercise and Sport Sciences)
現大阪体育大学教授。2003年にアメリカ合衆国ミネソタ州においてNATA-BOC公認アスレティックトレーナーの免許を取得。2006年にノースカロライナ大学グリーンスボロ校において博士号(運動・スポーツ科学)を取得後、2007年まで同大学においてフルタイムの Postdoctoral Research Associate として働く。2007年9月より大阪体育大学に就任し、現在に至る。非接触性前十字靱帯損傷予防のメカニズムの解明や、そのための合理的なトレーニング方法の開発などを研究テーマの主軸として研究活動を行っている。